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第88話  

周藤懐礼は、森岡翔をぼんやりと見ていた。

森岡翔に会った瞬間、彼はどこかで見たことがあるような気がしていたが、思い出せなかった。

森岡翔が自己紹介をした時、彼はようやく思い出した。彼は数日前、学校で噂になっていた、恋人に振られて、江大のグラウンド脇の林で吐血して倒れた、あの森岡翔ではないか!

彼のスマホには、森岡翔の写真や情報が保存されていた。

顔も名前も年齢も同じなのに、雰囲気が全く違う。

彼は、別人なのではないかと疑ったが、そんな偶然があるはずがない。年齢も顔も名前も同じ人間が二人もいるわけがないのだ。

では、やはりこの男は、自分の大学の学生である森岡翔なのだろうか。恋人に振られて、吐血した森岡翔だ。

しかし、今の彼は、堂々とした態度でここに立っている。池田様でさえも、恐れていないような様子だ。

彼には、信じられなかった。

「池田さん、まだ続けるのですか?」森岡翔は尋ねた。

彼は、それ以上攻撃しようとはしなかった。

彼の目的は、斉藤晨を助けることだけだった。斉藤晨は、彼に良くしてくれたし、同じ組織の仲間なのだ。彼が殺されるのを見過ごすことはできなかった。

彼は池田錚を、これ以上怒らせるつもりもなかった。確かに、今は自分のほうが強いと感じているが、実力はまだ足りないことを知っていた。

それに、彼と池田錚の間には、直接的な恨みはない。池田錚は斉藤晨を殺そうとしているのであって、彼を殺そうとしているわけではない。

もし、本当に誰かが自分を殺しに来たら、森岡翔は容赦なく反撃するだろう。相手の背景など関係ない。まずは殺してしまえばいい。強大な力を持つ彼は、そう考えるようになっていた。

池田錚は何も言わず、山岡仁の後ろから、森岡翔を睨みつけていた。

どうして、自分より年下である森岡翔が、あんなにも強いのか?彼には理解できなかった。

もしかしたら……

池田錚は、ある可能性に思い至った。

すべてを説明できるのは、その可能性しかない。

そう考えた池田錚は、納得した。

あの組織なら、あのような人材を育成することができるだろう。

このことは、早く本部へ報告しなければならない。彼らが、動き出したのだ。しかも、SCCに協力している者もいるらしい。これは、T子党にとって、由々しき事態だ。

「山岡さん、懐礼、行くぞ」

周藤懐礼は、慌てて山岡仁を
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